平成12年度青森県畜産環境保全指導事業
家畜排せつ物の堆肥化処理について
農林水産省畜産試験場飼養環境部廃棄物資源化研究室
長 田  隆
はじめに
1.家畜排泄物の発生量
2.家畜排泄物の処理の現状
3.畜産系から発生する“堆肥”の問題点
4.家畜ふん堆肥に係る研究の現状
5.おわりに
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はじめに
 

 農業は、色々な有機性廃棄物を肥料や飼料などの用途で数多く受け入れ、有機資源としてリサイクルしてきた。新農業基本法を受けて、農業関係の環境3法案(「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律」「家畜排泄物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」「肥料取締法の一部を改正する法律」)が平成11年に成立し、今後は家畜ふん尿をはじめ、多くの有機質資源を堆肥化等により処理し、リサイクル利用し、環境と調和のとれた持続的な農業生産を推進することが益々重要になってくるであろう。
 本講演では、有機性廃棄物の現状を簡単に紹介し、その中核技術である堆肥化技術について家畜排泄物処理のケースを取り上げて説明する。家畜ふん尿は多くの肥料成分や有機物を含み、作物への養分供給だけでなく土壌の物理性改良や生物性(多様性)の改善などにも効果が認められた資材である。しかし、栽培体系や農業全体の構造の変化とともに使用範囲が限定され、国内最大の有機性産業廃棄物という負の側面が強調されるケースも少なくない。限りある資源のリサイクルを考えたとき、この資材を資源として農業利用していくための問題点(量的、質的)を整理し、課題を克服するための選択可能な技術をご紹介する。
1.家畜排泄物の発生量−量的問題は解決可能か?
2.家畜排泄物の処理の現状−経営外、販売、・・・堆肥化への流れは堅調
3.利用を求められる畜産系から発生する“堆肥”の問題点
4.堆肥としての有効利用のために

硝酸性窒素
  汚染した水を飲水した場合、赤血球の
  ヘモグロビンと硝酸が結合し酸素運
  搬機能が低下、呼吸困難になる。乳幼
  児や高齢者では死亡する危険性があ
  る。硝酸性窒素濃度で10mg/L以下が
  基準。

胞子虫類の原虫
  クリプトスポリジウムはオーシスト
  (硬い殻)を形成するため塩素消毒
  が効かない。堆肥化による高温処理
  が有効。10固体程度の侵入で激しい
  下痢発症。

家畜排せつ物の適正化及び利用の促進に関する法律について

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1.家畜排泄物の発生量
 

 家畜ふん尿の総発生量及びそこに含まれる窒素・リンの量は、日本飼料標準を基にした算定(築城ら1997)によれば表1のようになる。ふん尿量9,700万トン、窒素総量76万トンでありリンは12万トンと推定される。この量は化学肥料として年間消費される窒素(60万トン)及びリン(32万トン)と比肩しうる膨大な量である。

 
表1 家畜排泄物及び窒素・リンの年間排泄量(築城の算定を基に原田が作成)
(1997年度)      
蓄 種 飼養頭羽数×千 頭羽 排泄物量(千トン) 窒素・リン排泄量(千トン)
ふん 尿 合計 窒素 リン
乳 用 牛 1,898 24,039 7,103 31,142 158.7 22.1
肉 用 牛 2,852 19,308 7,103 26,411 144.7 15.8
9,824 7,971 14,802 22,773 128.8 33.7
採 卵 鶏 183,765 8,065 - 8,065 196.1 33.8
ブロイラー 114,314 5,424 - 5,424 109.3 12.1
合 計 - 64,807 29,008 93,816 737.6 117.6
 
  バイオマス資源としての有機性廃棄物と家畜ふん尿
   

 表2は、生物系廃棄物リサイクル研究会が平成11年の2月にまとめた生物系廃棄物(食品産業、林業、農産、畜産など)の発生量及び成分含有量の総括表である。また、主な廃棄物の処理状況を当試験場の羽賀清典汚染物質浄化研究室室長が以下のようにまとめている。

   

 食品産業廃棄物 食品産業廃棄物は主に飼料に利用されており、その割合はビールかすなどでは95%に上る。焼酎かすは廃棄割合が50%と多く、スラリー状態であるからメタン酵素によるエネルギー利用の可能性がある。コーヒーかすはすでに工場内で燃料としてエネルギー利用されている。澱粉かす等の一部はクエン酸発酵の原料にも利用されているが、一部は廃棄されている。
 高水分で排出され、腐敗しやすい廃棄物であるビールかす、オカラ、焼酎かすなどの処理が問題となっており、飼料化の推進が重要だが、堆肥化の果たす役割も大きくなっている。これらは単独でも堆肥化されるが、他の廃棄物(下水汚染、家畜ふん、廃オガなど)と混合して堆肥化(融合コンポスト化)されることも多い。

   

 林産廃棄物 製紙スラッジやバークは焼却される割合が高く、燃料としての利用が考えられるが、水分が74%以上と高いことが問題であろう。バークやオガクズは主に畜舎の敷料に利用されて、最終的には堆肥となっている。しかし、バークの52%が焼却されており、焼却熱を利用したエネルギー利用への転換も考えられる。キノコ栽培後の培地(オガクズと米ヌカなどが原料)は廃オガと呼ばれ、生のオガクズよりは水分がやや高いものの堆肥の原料となっている。近年増大しつつある廃棄物であり、新たな有効利用方法を考える必要も出てこよう。

   

 農産廃棄物 ビートパルプは100%飼料利用されている。バガスは約90%が工場内で燃料としてエネルギー利用されており、一部は家畜ふん尿といっしょに堆肥化されている。昔から堆厩肥の原料として伝統的に利用されてきたモミガラやイネワラだが、最近ではイネワラのように鋤き込まれたり、モミガラやムギワラのように焼却処理されることが多い現状である。焼却処分しているものは燃料利用を考える必要があろう。

   

 畜産廃棄物 畜産廃棄物の中でも、家畜ふんは年間発生量(約9,400万t)がもっとも多く、堆肥化されている割合も高い。他の廃棄物と量的に比較しても突出しており、家畜ふん尿はわが国における代表的な堆肥原料となっている。また、羽毛、血液、不可食内臓等の副生物は、飼料などに有効利用されている割合が高い。

   

 その他の有機性廃棄物 農業以外の有機性廃棄物として、発生量が多いと考えられるものに下水汚泥がある。脱水・焼却などの処理後に最終処分されるものは、乾物重で171万tであり、そのうち有効利用されるものは約57万tである。堆肥化されるものは自治体で2万t、肥料会社で10万tの合計12万tであり、堆肥原料として多い量ではない。

 
表2 生物系廃棄物の発生量及び成分含有量(総括表)
生物系廃棄物 発生量
千t/年
乾物換算
千t/年
成分含有量(%) 発生量(千t/年)
窒 素 リン酸 カ リ 窒 素 リン酸 カ リ
農業系 イナワラ 10,940 - 0.60 0.20 1.00 65.7 21.9 109.4
ムギワラ 780 - 0.40 0.20 1.00 3.10 1.60 7.80
モミガラ 2,320 - 0.60 0.20 0.50 13.9 4.60 11.6
小計 14,040 - - - - 82.7 28.1 128.8
畜産系 家畜ふん尿 94,300 - - - - 749 274 519
家畜物残渣 1,670 - 5.01 7.13 3.72 83.8 119.3 62.2
林業系 樹皮(バーク) 950 - 0.53 0.08 0.28 5 0.7 2.7
オガクズ 500 - 0.15 0.03 0.14 0.8 0.2 0.7
木クズ 4,020 - 0.15 0.03 0.14 6 1.2 5.6
小計 5,470 - - - - 11.8 2.1 9
食品産業 動植物性残渣 2,480 690 1.41 0.53 0.57 9.8 3.7 4
汚泥 15,040 750 7.01 4.02 0.77 52.7 30.2 5.8
小計 17,520 - - - - 62.5 33.9 9.8
建設業 建設発生木材 6,320 - 0.15 0.03 0.14 9.5 1.9 8.8
生ゴミ(家
庭・事業系)
生ゴミ 20,280 5,680 1.41 0.53 0.57 80.1 30.1 32.4
草木類 木竹類 2,470 - 0.76 0.19 0.37 18.7 4.7 9.1
汚泥類 下水汚泥 85,500 1,710 5.18 5.37 0.37 88.6 91.8 6.3
し尿 19,950 - 0.60 0.10 0.30 119.7 20 59.9
浄化槽汚泥 13,500 270 5.18 5.37 0.37 14.1 14.6 1
農業集落排水汚泥 320 6 5.18 5.37 0.37 0.3 0.3 0
小計 119,360 - - - - 222.7 126.7 67.2
合計 281,430 - - - - 1,320 620 846
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2.家畜排泄物の処理の現状
 

 ふん尿処理方法の実体については、一定規模以上の乳用牛、肉用牛、豚、採卵鶏の飼養農家に対し、農林水産省統計情報部が最近行った調査がある。家畜ふん尿処理の状況(表3)によれば、大家畜では飼料作物の栽培とも結びついていることから「経営耕地還元」や「野積み」が多く、ついで「自家処理施設」による処理が多い。中・小家畜の豚・採卵鶏では「自家処理施設」による処理が最も多い。さらに自家処理施設を用いた場合の処理方法(表4)をみると、尿単独処理をのぞけば、ほぼすべての畜種で、固形分処理に堆肥化(「強制発酵」と「堆積発酵」)が採用されている。飼料作と結びつく「経営耕地還元」の多い乳用牛以外の畜種では、製造された堆肥の現状の仕向け先としては「販売」が最も多く、今後増やしたい仕向け先としても、全畜種で市町村内あるいは県内むけの「販売」を指向している。

 
表3 家畜のふん尿処理の状況別戸数割合
単位:%
区分 家畜ふ
ん尿処
理戸数
自 家
処 理
施 設
共 同
処 理
施 設
その他
処 理
施 設
処 理 施 設 以 外
経営耕
地還元
素 掘
だ め
野積み 敷料等
と交換
処理業
者委託
その他
乳用牛 ふ ん 100 20 4 1 52 - 0 13 0 3
尿 100 13 1 0 77 8 - 1 0 4
ふん尿 100 34 7 2 45 1 30 10 0 5
肉用牛 ふ ん 100 43 7 4 30 - 19 8 2 5
尿 100 32 7 2 49 5 - 1 - 9
ふん尿 100 56 14 5 19 1 18 8 2 9
ふ ん 100 74 15 1 7 - 9 2 2 4
尿 100 57 9 1 21 11 - 0 1 9
ふん尿 100 62 15 3 12 7 7 1 2 8
採鶏卵 ふ ん 100 80 9 3 5 - 3 0 2 14
注1 「共同処理施設」は、数戸の家畜飼養者が共同で設置した処理施設を利用して処理した場合及
   び堆肥センターでの処理である。
注2 「その他処理施設」は、処理業者及び個人の処理施設に処理を委託・譲渡した場合である。
 
表4 自家処理施設の処理方法別戸数割合
区分 家   畜
ふ ん 尿
処理戸数
天日乾草 火力乾燥 強制発酵 堆積発酵 焼却 浄化 貯留
乳用牛 ふ     ん
100
14
0
22
67
1
-
-
尿
100
-
-
10
-
-
11
75
ふん尿混合
100
14
0
32
42
-
1
14
肉用牛 ふ     ん
100
3
-
28
73
1
-
-
尿
100
-
-
29
 
-
7
62
ふん尿混合
100
-
0
40
52
-
0
1
ふ     ん
100
9
1
62
31
1
-
-
尿
100
-
-
17
-
-
61
23
ふん尿混合
100
10
0
47
33
-
7
9
採鶏卵 ふ     ん
100
43
5
42
21
4
-
0
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3.畜産系から発生する“堆肥”の問題点
 

 98年に当試験場では「家畜ふん堆肥の製造と利用技術」をテーマにした家畜ふん尿処理研究会が開催され、そこで上がってきた家畜ふん堆肥を農地に適用する場合の問題点を列挙してみると以下のような事項にまとめることができた。
1) 作物生育自体に悪影響をもたらすものが含まれる
2) 対象作物の品質に影響がある
3) 肥料成分が一定ではない
4) 肥料成分割合のバランスが悪い
5) 有効化する肥料成分の割合が畜種、副資材当の条件で大きく異なり施用量算定が困難
6) 有効化する肥料成分のパターンが明確になっていないため、きめ細かい肥培管理が困難
7) 必要な品質のものが必要な時期にない
8) 散布がめんどうである
このほかに、当然、総量として堆肥が全て農地に施用しうるのかという問題もあるが、ほとんどの事項が堆肥の品質を問題にしており、品質評価の指標は化学肥料との比較である。

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4.家畜ふん堆肥に係る研究の現状
  −家畜ふん堆肥の品質について−
 

 家畜ふん尿の処理としての堆肥化は、これまでも多くの取り組み(文献解題20,1994 など参照)がなされてきており、基本的技術としては完成されたものと言っていいだろう。堆肥化処理は、1)作物に対して有害な物質(揮発性脂肪酸やフェノールカルボン酸)の分解、2)臭気がひどく汚物間の強い、生ふん尿の取り扱い性の向上、3)病原菌、寄生虫卵や雑草種子の死滅/抑制、4)易分解性有機物の分解と安定化、を目的として行われてきた。これらの事項は原材料である生のふん尿が有する短所を軽減することであり、a)腐熟度という概念で表される。これに加え、施用効果としてのb)肥料成分量およびc)土壌改良効果、昨今問題視されるd)重金属含有量の4つの点で堆肥の品質をまとめる事ができる。

 

a) 腐 熟 度

   

 腐熟とは地力の維持・増強を目的として有機質資材を施用する場合に、あらかじめその有機質資材を処理して、微生物の作用によりある到達目標まで腐朽させておくことである。その到達目標として有機質資材を土壌に施用しても作物に生育阻害を引き起こすことなく、土壌微生物の活動にエネルギーを十分与えて地力を維持し、作物の生産性を高めるような有機成分組成を持つようになることである(井ノ子ら1979)。また、生のふん尿や未熟な堆肥は悪臭(揮発性脂肪酸や含硫化合物)がひどく、病原菌当の問題もある。こうした原材料の問題点を速やかに取り除くためには堆肥
化の主役である好気性微生物の活動が妨げられない
よう、堆積物内部まで空気(酸素)供給して好気的
な状態を保つことが重要である。
羽賀(1998)は家畜ふん尿の堆肥化を速やかに進
行させて腐熟させるためには、6つの条件、栄養分
(易分解性有機物)、水分、通気、微生物。温度、
時間が重要であると指摘している(図1)。
 腐熟度は生のふん尿の持つ短所の減少・消失をに
よって確認する方法が多く、CEC(陽イオン交換
容量)の増加のような堆肥のプラス効果の部分を評
価する判定法は少数である(表5、原田、1993)。
また、堆肥に係り、病原性大腸菌やクリプトスポリ
ジウムの動態に関する研究も始まっている。

 
表5 堆肥の腐熟度判定法(原田)
A. 微生物活動からの判定
 1) 堆積温度(Golueke)
 2) BOD(羽賀・原田)
 3) 酵素活性(Goluekeら)
 4) ガス発生量(ポリ袋法)(原田)
B. 生物を用いた方法
 1) 発芽試験(藤原)(長田ら)
 2) 幼植物試験(高橋)(河田)
 3) ミミズ試験(吉野)
 4) 花粉管生長テスト(若沢ら)
C. 物理性からの判定
 1) 物体色(藤原ら)
 2) 微細形態の観察(藤原ら)
 3) 識別残渣重量(日向ら)
D. 化学性からの判定
 1) C/N(Poincelot)(Golueke)
 2) 水抽出物のC/N(久保田)
 3) 還元糖割合(井ノ子・原田)
 4) アンモニア不検出
         (Sp100ohn)(森)
 5) 硝酸イオン検出(原田)
             (Finstein)
 6) COD(Lossin)
 7) pH(Jannら)
 8) EC(日向ら)
 9) 揮発性成分(羽賀ら)
 10) 遊離アミノ酸(原ら)
 11) 水抽出物のゲルクロマト
      グラフィー(吉田・久保田)
 12) CEC(原田・井ノ子)
E.腐植物質による判定
 1) 円形濾紙クロマトグラフィー
       (Hertelendy)(井ノ子)
 2) 腐植物質含量
        (Morel)(渡辺・栗原)
 3) 沈殿部割合(菅原・井ノ子)
F.総合的判定
 1) 評点法(川辺・高野)(原田)
 2) 判別スコア値
   (下水汚泥資源利用協議会)
 
  b) 肥 料 成 分
     堆肥の含む無機成分含量について、1983年および1996年の「家畜ふん尿処理利用研究会」の会議資料にアンケート調査・分析をしてまとまったデータが示されている(表6、7)。堆肥中の各肥料成分は畜種や混合される副資材によって大きく異なる。鶏ふん堆肥は牛ふんや豚ふんを原材料とした堆肥に比べて窒素、リン酸、カリウムなどの成分含量が高い。また、豚ふん堆肥は窒素やリン酸含有量が高く、牛ふん堆肥はカリウム含有量が高い。このような傾向は原材料である生ふんの畜種の傾向を反映したものである。尿散布が行われたり、戻し堆肥を水分調整に使った場合には、高濃度の塩類が蓄積された堆肥となる。肥料成分濃度が高いことは、現状ではむしろ流通の妨げともなっている。これは堆肥中の肥料成分が、堆肥によるばらつきが大きいこと、バランスがよくないことと、肥料成分が、一般的には、緩行性で肥効が制御しにくい事が原因である。堆肥中の肥料成分については、中谷ら(1995)が近赤外分析法による簡易分析を検討している。また、肥効調節のための異畜種ふんの混合堆肥(薬師堂、1997)や成型(原、1997)等による肥効の調節が試みられている。さらに、特定塩類の集積を防ぎつつ、堆肥の還元を進めていくためには、土壌、気候、作物別の施用マニュアルが必要であり、その試みが始まっている(富山県等、1994)。
 
表6 家畜ふん堆肥の無機成分含有量(草地試験場)
-a) 牛ふん (乾物%)
種類\成分 乾物率 N P2O5 K2O CaO MgO Na2O T-C 分析試料数
オガクズ入り堆肥
M
34.5 1.71 1.79 1.96 2.96 0.70 0.52 39.9 15 151
CV
21.5 16.5 36.3 35.0 90.8 40.1 38.6 11.5    
イナワラ入り堆肥
M
22.4 2.16 2.15 2.31 2.31 0.96 0.65 36.0 7 75
CV
25.3 20.3 23.0 33.3 35.7 20.9 - 23.3    
モミガラ入り堆肥
M
27.4 1.35 5.59 1.92 0.95 0.74 - 38.0 2 5
CV
- - - - - - - -    
牧乾草入り堆肥
M
24.8 2.30 1.38 2.17 2.06 0.81 0.34 38.2 5 134
CV
19.7 13.2 25.7 46.6 36.7 16.1 - 54.8    
M:平均値 CV:変動係数 n:回答場所数 f:分析点数
 
-b) 豚ふん (乾物%)
種類\成分 乾物率 N P2O5 K2O CaO MgO Na2O T-C 分析試料数
オガクズ入り堆肥
M
42.8 2.22 3.25 1.53 3.00 0.97 0.14 39.9 16 227
CV
21.9 17.7 48.6 39.8 60.0 49.6 - 16.6    
イナワラ入り堆肥
M
30.3 2.92 5.95 4.74 1.38 0.87 0.62 - 2 12
CV
- - - - - - - -    
モミガラ入り堆肥
M
60.5 2.27 3.67 1.21 4.00 1.16 - 38.8 3 34
CV
13.3 9.3 15.1 80.1 - - - -    
 
-c) 鶏ふん (乾物%)
種類\成分 乾物率 N P2O5 K2O CaO MgO T-C 分析試料数
採卵鶏 オガクズ入り堆肥 M 45.9 1.94 3.74 2.44 7.13 0.85 32.6 8 90
CV 17.3 28.8 34.0 105.1 - - 2.1    
ブロイラー オガクズ入り堆肥 M 56.4 4.00 4.77 2.79 5.47 2.53 34.0 - 15
CV 25.7 37.7 42.8 48.9 54.2 138.3 21.4    
 
表7 家畜ふん堆肥のpHおよび各成分含有量
(山口・原田、「家畜ふん尿処理利用研究会」会議資料、1996)
蓄種
副資材
項目
水分
pH
EC**
T-N*
T-C*
T-P2O5*
T-K2O*
T-CaO*
T-MgO*
C/N比
なし 試料数 53 56 51 58 55 58 58 55 55 55
最大値 80.5 10.2 9.9 4.0 52.8 21.4 7.8 12.9 2.3 37.6
最小値 14.4 6.1 0.7 0.6 6.6 0.2 0.5 0.4 0.4 7.2
平均値 49.9 8.4 4.9 2.2 34.9 2.9 2.9 4.2 1.3 16.7
標準偏差値 14.1 1.0 2.0 0.8 8.5 2.8 1.5 2.7 0.5 6.1
オガクズ 試料数 130 187 158 196 179 196 196 171 171 186
最大値 79.8 9.8 13.9 4.1 48.0 14.6 7.2 8.7 2.7 39.1
最小値 4.2 5.2 0.2 0.4 11.5 0.4 0.5 0.2 0.2 9.7
平均値 57.8 8.3 5.1 1.9 37.0 2.3 2.6 2.7 1.1 21.0
標準偏差値 13.5 0.9 2.2 0.6 8.9 1.5 1.2 1.8 0.5 5.9
モミガラ 試料数 19 18 14 20 17 21 21 16 16 17
最大値 72.2 9.1 6.6 5.0 37.9 7.8 6.9 15.1 1.9 32.1
最小値 13.0 6.7 0.6 1.4 10.7 0.5 0.0 0.7 0.3 10.4
平均値 57.0 8.1 4.1 2.3 29.4 3.4 2.5 4.4 1.2 16.2
標準偏差値 14.5 0.7 2.2 0.9 7.3 2.2 1.8 3.4 0.5 5.7
オガクズ
モミガラ
試料数 14 11 9 17 10 17 17 9 9 11
最大値 71.5 9.4 8.9 3.1 40.7 3.6 2.9 4.1 2.0 28.9
最小値 34.9 6.7 0.8 0.6 11.1 0.4 0.1 0.8 0.5 11.4
平均値 54.3 8.1 4.9 1.8 24.5 1.9 1.8 1.9 0.9 19.9
標準偏差値 12.3 0.9 2.6 0.7 12.2 1.0 0.8 1.0 0.5 5.4
オガクズ
その他
試料数 14 16 6 16 15 17 17 15 15 16
最大値 71.5 9.6 6.7 3.0 47.4 5.4 3.7 4.3 1.5 28.7
最小値 34.9 5.4 0.8 1.3 7.8 0.6 0.6 0.6 0.3 11.1
平均値 54.3 8.2 4.7 2.0 33.2 1.8 1.9 1.8 0.7 18.5
標準偏差値 12.3 1.0 2.1 0.6 11.3 1.3 1.0 1.2 0.3 5.6
試料数 13 13 13 13 13 13 13 13 13 13
最大値 73.4 16.0 9.0 17.0 47.4 17.0 17.0 15.1 15.0 32.1
最小値 13.0 0.7 0.6 0.6 7.3 0.4 0.0 0.6 0.3 5.4
平均値 40.3 7.7 4.5 4.2 22.1 4.8 4.4 4.8 2.6 16.6
標準偏差値 25.3 4.0 2.9 5.6 14.1 5.8 5.9 5.1 4.4 8.8
なし 試料数 49 41 40 49 48 49 49 47 47 48
最大値 71.0 9.4 11.6 5.3 47.4 12.2 4.5 28.0 6.5 30.3
最小値 9.0 5.7 3.6 1.4 13.0 2.0 1.3 0.9 0.6 2.6
平均値 29.0 8.2 7.1 3.8 34.9 7.1 3.0 6.4 2.5 9.9
標準偏差値 14.0 0.7 1.8 1.0 6.4 2.6 0.8 4.3 1.4 4.1
オガクズ 試料数 58 52 42 59 49 59 59 44 44 54
最大値 76.5 9.9 12.6 4.6 50.4 10.9 4.7 10.0 3.7 29.5
最小値 12.9 5.2 0.8 0.6 12.0 0.6 0.2 0.1 0.2 6.2
平均値 43.8 8.4 5.9 2.5 30.7 5.4 2.6 5.1 1.6 14.2
標準偏差値 17.1 0.9 2.5 0.8 9.3 2.1 1.1 2.3 0.8 5.1
モミガラ 試料数 16 11 9 16 13 16 16 11 11 13
最大値 70.9 9.2 12.0 4.8 41.2 8.6 5.2 8.2 2.9 21.1
最小値 22.9 6.3 4.3 0.6 13.2 1.3 0.3 0.2 0.4 8.0
平均値 52.7 8.0 7.5 2.7 28.9 4.8 1.9 4.1 1.3 12.6
標準偏差値 14.0 0.9 2.2 1.0 9.2 2.0 1.4 2.9 0.7 4.3
オガクズ
モミガラ
試料数 15 2 - 15 3 15 15 13 13 3
最大値 75.2 9.0 - 3.7 38.8 8.6 2.7 4.6 1.7 13.9
最小値 17.0 9.0 - 1.9 22.2 3.0 0.5 0.8 0.5 11.5
平均値 56.3 9.0 - 2.5 27.7 5.1 1.6 3.3 1.2 12.3
標準偏差値 15.9 0.0 - 0.5 9.6 1.7 0.6 1.1 0.3 1.4
なし 試料数 51 47 46 53 50 53 53 50 50 50
最大値 49.9 10.1 17.5 8.5 42.3 11.1 5.8 30.5 9.2 22.6
最小値 7.8 6.5 4.3 1.8 14.1 2.7 1.9 0.6 1.0 3.5
平均値 19.7 8.4 8.5 3.5 27.9 7.3 3.9 15.8 2.2 8.4
標準偏差値 7.8 0.6 2.1 1.3 6.9 1.8 1.0 7.2 1.6 3.0
オガクズ
試料数 9 7 7 9 9 9 9 9 9 9
最大値 62.1 8.9 11.3 4.6 40.1 11.5 4.5 17.4 20.8 21.8
最小値 15.0 6.5 3.2 1.4 18.3 2.3 1.1 0.8 1.3 6.2
平均値 37.1 8.6 7.2 3.7 31.3 6.1 3.1 6.3 2.7 11.0
標準偏差値 14.8 0.8 2.8 1.1 7.6 3.0 1.0 6.1 6.6 4.8
注)*印は乾物%、**印はmS/cmである。 (山口・原田、1996年作成)
 
  c) 土 壌 改 良
     堆肥の適用による土壌改良効果として、陽イオン交換容量(CEC)の増加や有機質のキレート作用による肥料効率向上などが多くの作物試験で報告されている。また、土壌の緩衝能力を増大させ、低温、干ばつ、塩類集積等の生育環境が不良な条件でも、それらの影響を緩和する作用を有するようになると言われる。土壌の物理性の面では、土壌の団粒形成を促し、膨軟で易耕性もまし、通気性、透水性や保水性が増大し、植物根の伸長が良くなる事が調べられている。しかし、その効果をもたらす堆肥中の有機物についての研究例は多くはなく、まだ不明な部分も多い。原田ら(1993)セルロースやヘミセルロース等の堆肥化過程の変化を解析した研究がある。
  d) 重 金 属
     越野(1982)によれば、特殊肥料として届け出されている堆肥等の銅、亜鉛含有量は、多くのサンプルで高い価を示している。銅については牛、鶏を原材料とする場合90%の試料で100mg/kg(DM)以下であるのに対し、豚では70%がこの価を超える。亜鉛については鶏では80%、豚では90%以上の試料について200mg/kgを超えており、堆肥の連用に際しては注意を要する。この原因は、成長促進や下痢防止等の効果をねらった飼料への添加によるものである。しかし、この数年での通達等による指導の結果、過剰なこれら重金属の添加は慎まれている。
 
表8 家畜ふん堆肥の品質推奨基準(全中、1993提案)

ア.品質表示を要する基準項目   イ.品質表示を要さない基準項目

基準項目 基準値   基準項目 基準値

 
有機物 乾物当たり 60%以上  

水分

現物当たり 70%以下
炭素−窒素比   30以下   電気伝導度 現物につき 5mS/cm以下
窒素全量 乾物当たり 1%以上        
リン酸全量 乾物当たり 1%以上        
加里全量 乾物当たり 1%以上        

 ただし、各種堆肥に共通な品質基準として、(@)ヒ素、カドミウム、水銀については肥料取締法の特殊肥料の規制に適合すること、(A)幼植物試験(コマツナ)で生育に異常を認めないこと、(B)乾物当りの銅、亜鉛含有率が600mg/kg及び1,800mg/kg以下であることが定められている。
 
    −堆肥化処理に係る環境負荷−
     堆肥の施用を促進していくことが環境保全的であり、“環境にやさしい”とは、単純に言えないことは悲しいが事実である。肥料効果が判りにくいふん尿堆肥のやみくもな使用は地下水汚染の助長にもつながる。さらに、昨今、堆肥化過程や堆肥を施用した農耕地からの揮散物質の環境負荷が問題視されている。酸性雨の原因物質としてのアンモニアや、温暖化ガスとして亜酸化窒素やメタンの放出が等試験場でも検討されている。
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5.おわりに
   堆肥の利用を考える際、量的な側面と質的な側面の両方の問題である事が判る。質的になんらかの優位性を持たせるためには処理が必要であり、その経費のために高価で敬遠されてしまうケースもあるだろう。必要な品質の堆肥が、必要な量、いつでも・・・というのは行き過ぎのようなきもするが、耕種農家の要望と畜産農家の供給がうまく噛み合うよう、多くの地域で行われつつある両者の連携を推進する働きかけ(両者の情報交換や共同堆肥化センター等)に期待すると共に、そこでの問題点をすみやかに解決できるよう努力したい。バランスを取る事がいかに難しいか、ライフサイクルアセスメント(LCA)という手法による環境影響の堆肥も有効と考え、新たな課題として取り組んでいる。
 
参考資料

 

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越野正義(1982):家畜排泄物に由来する重金属の動態、農技研肥料科学資料、238、23-34

築城幹典・原田靖生(1997):我が国における家畜排泄物発生の実態と今後の課題、環境保全と新しい畜産、農林水産技術情報協会、15-29

富山県畜産試験場、新潟県畜産試験場、石川県畜産試験場、石川県農業総合研究所、福井県畜産試験場(1994):積雪地帯における良質堆肥生産利用技術の開発、地域重要新技術開発促進事業研究報告

中谷誠・原田靖生(1995):堆肥化過程における家畜のふんの近赤外線拡散反射スペクトルの主成分分析、土肥誌、66、422-429

農林水産技術会議事務編(1994):家畜ふん尿処理・利用技術、農林水産研究文献解題No.20、第二章家畜ふん尿処理技術、第三章家畜ふん尿利用技術

農林水産省統計情報部(1998):環境保全型農業調査畜産部門調査結果の概要(平成9年2月調査)

農林水産省草地試験場(1983):「家畜ふん尿処理利用研究会」会議資料、60-61

農林水産省畜産試験場(1996):「家畜ふん尿処理利用研究会」会議資料、15-23

農林水産省畜産試験場(1997、1998):「環境保全のための家畜排泄物高度処理・利用の確立」推進会議資料

農林水産省畜産試験場(1997):「家畜ふん尿処理利用研究会(平成8年度)」会議報告書

農林水産省農業研究センター(1995、1996):「環境保全のための家畜排泄物高度処理・利用の確立」推進会議資料

羽賀清典(1998):畜産環境保全論、養賢堂、押田敏夫、柿市徳英、羽賀清典共編、56-60

原正之(1997):成型家畜ふん堆肥の肥効特性と散布適正、「家畜ふん尿処理利用研究会」会議資料、農林水産省草地試験場

北陸農政局畜産課編(1996):環境保全型畜産の推進「北陸管内の共同利用堆肥センターの概要」

Y.Harada et.al (1993):Quality of compost production from animal wastes,JARC Vol.126,238-246

薬師堂謙一 (1997):家畜ふん堆肥の成型による広域流通、「家畜ふん尿処理利用研究会」会議資料、農林水産省草地試験場

 
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