牛がつなぐ福祉と畜産の里

―牛づくりは人づくり―

社会福祉法人恩和会 授産施設 農工園千里平(のうこうえんせんりたい)

 


農工園千里平


【授産施設 農工園千里平】

農工園千里平は、知的障害者の就労や技能修得のため、大家畜の飼育を通じて職業訓練を行っている授産施設である。


1,施設の設立経緯

   (1)農工園千里平の設立者で元園長でもある坂本嘉隆氏は、昭和21年に北海道から現在地に入植し、懸命な努力により水田8haを耕作する篤農家となった。氏は、言語障害を持つ長女が県立七戸養護学校高等部を卒業しても働き場のない状況を痛感し、同じ境遇に置かれている親子のため、私財を提供して、妻と2人で昭和58年に在宅障害者の働き場となる施設建設に着手した。

 (2)昭和62年4月に社会福祉法人として認可を受けて以来、農作業を通じた知的障害者の授産施設として15歳以上の園生を受け入れしており、開設当初の2名から始まった当施設も今や38名の園生が近くにある福祉ホームや自宅から通園している。
 現在、園長のほか11名の職員が知的障害者の生活や農作業等の作業指導に献身的に当たっている。

 

2,肉用牛による園生の作業訓練

   (1)園生は、農作業や多岐にわたる園内外での活動を通じて日常生活に必要な知識と技能を身に付け、自立した生活ができるよう社会参加を目指して訓練を行っている。

   農作業については、黒毛和牛の飼育を中心とする畜産班のほか、水稲班、環境整備をする家庭科班に別れている。

   また、園内の共同生活の中で掃除、洗濯、あとかたづけ等身の回りのことを自ら行うことや、近隣農家への作業協力、畜産共進会等への肉牛出品と見学、ほぼ毎月開催されるレクレーション、地域交流会等に取組んでいる。

   これら一連の活動は、園の運営方針並びに指導目標として「知恵は遅れていても、立派な人間に」「生かされた人間ではなく、自ら生きる人間に」を園生が自らの実践を通じて体得させることを目指したものである。

   (2)特に畜産班は和牛1班から4班まであり、園生にとって牛の飼育担当になることが憧れとなっており、園生は自ら進んで長時間の牛体ブラッシングを行う等、牛の管理に喜びを感じている。このような愛情を持って牛に接することにより、牛が非常に穏やかで人によく馴れている。その牛が販売された時大いに悲しむが、再び新しい牛を与えられて生き生きとしてその牛の管理に夢中になること、共進会でチャンピオン賞を取った時に両手を上げて大きな喜びを表す様など、園生達がこれらの活動に積極的に参加し、自らの意志で目標に向かって努力している。

   園生のこれらの貴重な経験は、広々とした農場の中での穏やかな農作業、とりわけ、牛の飼育は手間を掛ける程牛が人になつくという形で園生に返ってくることなど、知的障害者にとって心地良い環境が与えられていること、さらに、園長を始めとする全員の指導者が障害者の可能性を信じ、障害者の立場に立ち、我慢強く対応していること等により実現するものと推察される。

 

3,成果

   (1)優良牛生産の実証

   施設では県内の先進農家にも比肩する優良牛を生産しているが、これは市内の肉用牛飼養篤農家による指導と、職員等のたゆまない熱心な研究心によるものであるのは言うまでもない。しかしながら、さらに加えて見逃せない点としては、園生の「牛とのスキンシップ」とも取れるほどの毎日の丁寧な飼育管理により、ストレスの軽減からくる順調な発育や肥育が期待され、牛が人間や環境によく馴れて生来持っている資質や能力を十分に発揮しているものと考えられることである。その結果、県内外の和牛共進会及び枝肉共励会においても数々の上位入賞につながっている。

   (2)アニマルセラピー効果

   園生が肉牛の飼育に夢中となり、それにより牛が人に懐くこと、その牛が共進会で入賞するたび牛の管理に喜びを感じ自ら積極的に作業することなど、アニマルセラピー効果のあることが推測される。またこのことが、牛にとっても障害者のスキンシップとも取れるほどの飼育管理は快適なものであり、家畜としての能力を十分発揮させるための効果を生み出しているものと推察する。

   (3)授産施設での肉用牛飼育の展示

   授産施設での家畜飼養は中小家畜が一般的であり肉用牛は稀であるが、当施設での肉用牛飼育は非常に有効であることが実証されており、かつ地域畜産振興にも寄与している。このことは他の多くの授産施設に対し多いに参考になるものと考えられる。

 

1.地域の概況
2.地域畜産振興活動の内容
3.当該事例の活動 ・成果の普及推進のポイント
4.活動の年次別推移
5.活動に対する受益者等の声(評価・意見)等
 
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