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放牧で超!!低コスト経営
――夏山冬里で粗飼料自給率100%の大規模繁殖経営――
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青森県むつ市川内町袰川(ほろかわ)
鈴木悦雄・栄子 |
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1 出品財 |
出品区分:経営内放牧
草種・品種:オーチャードグラス主体草地
利用形態:放牧、採草
出品ほ場面積:3,884a
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2 地域の概要 |
むつ市は、下北半島の中央部に位置し、年平均気温は9.4℃、年間降雨量は1,312mm、冷涼寡照で夏季の偏東風(ヤマセ)や濃霧が農作物に与える影響が大きい。
むつ市川内町袰(ほろ)川(かわ)は、下北半島の南西部むつ湾沿いにあり、戦後、野平(のだい)地区に入植した開拓者達が川内ダム建設に伴って昭和56年に集団移転して新たに作られた集落である。
野平(のだい)地区は袰(ほろ)川(かわ)から北西に約30kmの山間部にあり、ダムの水没を免れた野平(のだい)地区の農地と袰(ほろ)川(かわ)の造成畑地の両方で農業を行っている。袰(ほろ)川(かわ)の農家戸数は25戸で、肉用牛飼養農家が17戸あり、そのうち14戸が野菜との複合経営を行っている。
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3 経営の概要 |
(1)経営形態:肉用牛(黒毛和種繁殖)+野菜(カブ、ダイコン) |
(2)家族及び労働力
区分 |
年齢 |
主な作業内容 |
農業従事日数
(うち畜産部門) |
経営主 |
61
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飼養管理、粗飼料生産、野菜生産
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350(250) |
妻
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56 |
飼養管理、野菜生産 |
350(250) |
長男 |
34 |
飼養管理、粗飼料生産、野菜生産 |
300(250) |
長男の妻 |
27 |
飼養管理、野菜生産 |
160(100) |
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(3)家畜飼養頭数(単位:頭)
成雌牛
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育成牛 |
子牛 |
合計 |
65 |
10 |
52 |
127 |
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(4)経営耕地面積(単位:ha)
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採草地 |
兼用地 |
放牧地 |
野菜畑 |
合計 |
全 体
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5.97
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20.14
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12.73
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2.55
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41.39 |
袰(ほろ)川(かわ) |
5.89 |
0 |
0 |
0 |
5.89 |
野(の)平(だい) |
0.08 |
20.14 |
12.73 |
2.55 |
35.50 |
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(5)主な施設
区 分
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内 容 |
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袰 川 (ほろかわ) |
野 平 (のだい) |
畜 舎 |
木造2階建2棟1,074㎡ |
避難舎木造1棟 |
施 設 |
車庫木造1棟39㎡
倉庫2棟297㎡
堆肥舎木造433㎡、尿溜8.1立米
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車庫D型132㎡
倉庫DH型165㎡
住宅1棟 |
機 械 |
トラクター4台(90ps、85ps、73ps、59ps)、ロールベーラー、ラップマシーン、ブロードキャスタ、ロータリーレーキ、ジャイロテッダ、マニュアスプレッダ、ダンプトレーラー各1台、
プラウ、ロータリー、ベールグラブ、ホイールローダ各2台、
トラック3台(1.5t、3.5t、4t家畜運搬車) |
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(6)経営・技術主要諸元(H19.肉用牛部門)
区分
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実績 |
売上高 |
37,355千円 |
子牛販売平均単価 |
612千円 |
所得率 |
58 % |
家族労働1人当り年間所得 |
5,455千円 |
成雌牛1頭当り年間所得 |
335千円 |
子牛1頭当り生産原価 |
284千円 |
平均分娩間隔 |
12.0ヵ月 |
平均産次 |
5.5産 |
飼料TDN自給率 |
77 % |
自給飼料生産コスト(TDN1kg当たり) |
8.9円 |
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4 経営の特徴 |
(1) 夏山冬里の通勤農業
自宅のある袰川(ほろかわ)と放牧地のある野平(のだい)は約30km離れている。放牧開始の5月下旬と10月下旬の放牧終了時には、トラックで牛を運ぶ。袰川(ほろかわ)の採草が終わり次第、野平(のだい)の兼用地の採草を行うため、作業機械もトラックで運んでいる。
野菜の収穫などで特に忙しい時は野平(のだい)に泊まり込みをするが、普段は通勤している。
家族労働だけで、繁殖牛75頭と野菜約2haの複合経営を維持できるのは、5月下旬~10月末までの昼夜放牧と、牧草作業と競合しない野菜(カブ、ダイコン)を主に作付けしているためである。また、牧草地と野菜畑の輪作により、土壌病害が少なく良質の根菜類が生産され、草地更新が計画的にできるので、嗜好性の良い良質粗飼料を生産している。
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《年間作業体系》
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(1) 粗飼料完全自給、放牧地フル活用で省力低コストの工夫
黒毛和種導入当初から放牧を実施しており、昭和46年、米の生産調整をきっかけに2haすべての水田に牧草を作付けし、水田放牧にいち早く取り組んでいる。
その後も補助事業を活用し、草地造成や起伏修正、排水改良などを行い草地の生産性向上と作業性の改善を図ってきた。離農跡地の取得や借地で飼料基盤を確保し、粗飼料は完全自給している。
袰川(ほろかわ)の採草地約6haと野平(のだい)の兼用地20haで冬期舎飼い時の粗飼料を確保している。
野平(のだい)の兼用地は1番草収穫後放牧利用している。兼用地を含め放牧地約33haを37の牧区に区切り、草地の利用率向上を図っている。繁殖牛は栄養度と妊娠ステージ毎にグループ分けし、1群は2~8頭、入牧時は8群に分けている。舎飼い期間中(11月~5月下旬)に分娩した牛は、妊娠鑑定、離乳後放牧している。離乳した子牛は放牧しない。9月までに繁殖牛は全頭放牧する。
放牧期間中は放牧地で分娩、人工授精を行っている。放牧地では親子とも、濃厚飼料の増し飼いはしていない。放牧地分娩では難産などの分娩事故が少なく、生まれた子牛の下痢や呼吸器病が少ないので、離乳後の発育に特に障害はない。放牧していると発情の発見が容易で、人工授精は放牧地で行っている。
牧柵は足場用単管を自分で加工し、市販品の三分の一の価格で、しかも長持ちさせている。
舎飼い時は、生後2週目から制限哺乳を行うことにより、分娩後の発情回帰が早く、一年一産につながっている。制限哺乳をするため子牛室を設け、スターター、水、乾草を給与している。そのため、子牛の観察が容易で異常の早期発見ができる。離乳は4ヵ月齢を目安にしている。
(2) 優良子牛の生産
人工授精は昭和46年頃から実施しており、優良血統の繁殖牛を早くから導入してきた。県内の家畜市場が統合し、「第1花国」の評価も高まったことから、青森県家畜市場に全国から買参人が来るようになり、「第1花国」を中心に交配した結果、県平均以上の高値販売ができた。現在は、雌牛の血統整備のため、県外から優良血統牛の導入を行っており、後継牛は血統、育種価などで選定している。
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5 地域との交流・調和 |
現在、「袰川(ほろかわ)集落中山間地域直接支払交付事業」に参加し、集会所の花壇整備、桜の木や農道の木の剪定、草刈り、野平(のだい)地区の花壇整備や農道の砂利敷き、木の剪定などの環境整備を行っている。また、野平(のだい)にある「道の駅かわうち湖」では、毎年10月に「野平(のだい)高原祭り」を開催し、野菜の直売や焼肉など観光協会と協力し、消費者交流を行っている。 |
6 今後の目指す方向 |
子牛販売頭数を80頭にし、市場の平均価格以上での販売を維持するのが目標である。
今後は、子牛価格の低下が予想されることから、一年一産、市場性の高い子牛生産、放牧期間延長でさらに低コスト・省力化 を図ること、増頭のために畜舎の増築などを考えている。粗飼料の完全自給は今後とも維持していきたいので、飼料基盤確保のために土地集積を積極的に行う。
県内の他の繁殖農家も優良雌牛の導入などで増頭を図っており、技術もレベルアップし、良い血統、増体の良いものが当たり前になっているので、更なる雌牛の更新と子牛の発育向上を目指していく。
今後「第1花国」を超える種雄牛が他県から出てくることを想定し、今以上に肥育農家の信頼を得られる素牛づくりができるように意見を聞き、積極的に情報を集めて要望に応じられるようにしていきたい。
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