牛がつなぐ福祉と畜産の里

―牛づくりは人づくり―

社会福祉法人恩和会 授産施設 農工園千里平(のうこうえんせんりたい)

 

2.地域畜産振興活動の内容

1)地域畜産振興につながる活動・取り組みの具体的な内容

【全般】

障害者を対象に「農」を中心とした生活訓練、職業訓練による自立、社会参加を目的に社会福祉事業を実施している中で、肉用牛という大型の家畜を飼育し、その繁殖、育成、肥育という一連の作業を取り入れている。

また、子牛、種畜の売却や肥育牛の出荷を事業活動としており20年以上継続している。「農作業部門」の中には稲作、育苗、畑作、粗飼料生産も展開され、家畜の堆きゅう肥の草地還元、地域での稲わらと堆肥交換をしながら資源循環型農業も目指している。

稲作部門

【稲作部門】

自給分の米を生産するほか、地域農家からの委託を受け育苗や苗の販売もしている。

最近では減反制度の切り替え等で育苗枚数が減ってきているものの、廉価で質が良いとの評価を貰っている。

【肉用牛飼育部門】

肉用牛の飼育が、主な事業活動となっている。当初1頭の寄贈から始まったが、現在の飼養規模は地域としても比較的に大きく、繁殖牛78頭、肥育牛13頭、子・育成牛44頭の計135頭となっている。畜産班は和牛1班から4班(各7名)に分かれるほど希望者が多く、毎日の作業に熱心に取組んでいる。

牛は自家生産の他外部導入も行っており、血統、体型的に優れている。

施設での生産牛は、性格温和で飼いやすく地域の模範となっている。その理由としては、一日中でも牛のブラッシングをするなど牛の担当になった園生が愛情を一心に込め飼育しているためと考えられる。

前園長、坂本嘉隆氏の長年の経験から積み上げた言葉を借りると「園生とのふれあいで牛の気持ちが優しくなりいい性格、肉質に育つ。アニマルセラピーと言う言葉の中には、牛によって人が安らぐだけでなく、人によって牛が安らぐという側面もある事を体現している。牛を飼い始めてから園生が笑顔を絶やさなくなった。また、担当の牛を持たせてもらえる事があこがれであり、担当を決め世話をすることで責任感が生まれる。牛に愛情を与えると牛から愛情が返ってくることを、牛が園生に非常によくなつく事で実感している。」とのことである。

肉用牛飼育部門

そんなところから、「牛づくりは人づくり」という農工園のモットーが生まれた。

施設や設備だけではない究極のアニマルウェルフェアと言えるかも知れない。

共進会や枝肉出荷、共励会へ積極的に出品しており、その結果が園生の励み、自信となっている。その他の主な取組としては、牛舎は電柱などの廃材を使った自家労力による低コスト畜舎の建築、水田(1ha×4区)放牧による労働力削減と農山村の景観保持、調教と触れあいを兼ねた「牛の散歩」なども行っている。

【地域交流】

近隣農家との作業協力だけでなく、社会参加として夕涼み会、カラオケ発表会、クリスマス会やお茶会を実施している。

芝生、植裁等を環境整備し園内のレクレーションだけでなく、老人クラブや学童のキャンプ場として開放しており、中高年ボランティアスクールや保育所、体育振興会へも場所を提供している。

毎年、十和田市民と障害者の集い「ゆめ色フェステバル」(障害者が行う学芸会のようなもの)を開催。千人近くが集まり、障害者も市民も一緒になって寸劇や餅つき大会などを楽しんでいる。

地域交流

【生活訓練】

肉用牛飼育部門、水稲部門の他に家庭科部門を設置し、共同生活の中で、掃除、洗濯、調理、後かたづけに取り組んでいる。

【スポーツ】

園生の体力増進とレクレーションを兼ねてフリスビー、ソフトボールチームをつくり、大会に参加している。また、レクレーションとしてボーリング大会も開催している。

【特記事項】

事業全体としては、大型家畜である肉用牛の飼育を中心的な事業活動としており、同様な社会福祉施設としては希有な事例であると思われる。

 

2)当該事例の活動目的と背景

【動機:農工園 千里平設立の経緯】

  • 北海道から昭和21年に入植した前園長の坂本嘉隆氏は、は8ヘクタールの水田を耕作する稲作農家であったが、未熟児で産まれた長女が言語障害をもち、自立、就職などで大変苦労をしたことから施設の設立を決意した。
  • 昭和59年に住宅、倉庫、作業所、ビニールハウス、畜舎等を整備し、15歳以上の知的障害者を受け入れるミニ授産施設を、およそ7千万円の私財を投入してスタートし、設立主体は「十和田地区手をつなぐ親の会」で当初は園生2名だった。
  • 千里平という名前は「千里の道も一歩から」という思いが込められ命名された。
  • 昭和62年4月に社会福祉法人の認可を受け、法人化に伴う主体施設は「恩和会」で、定員が一挙に20名となった。 

(活動目的)

  • 知的障害者は「何もできないのではなく何もさせてもらえない」のが現状で、養護学校卒業後に働く場所を提供し、職業訓練と生活訓練により農作業を通じた自立と社会参加を狙いとしている。

【肉用牛飼育の開始】

  • 初めは園生が水稲、芝生生産、実験用モルモットの飼育などを行っていた。
  • 県の主催する農業経営者会議に前園長の坂本氏が出席した際、「牛好き」という縁で出会った十和田市の畜産農家福沢常次郎氏から、昭和62年に「園生にぜひ牛も飼わせたい」という意向で黒毛和牛の雄子牛1頭の寄贈をうけた。
  • 福沢氏の指導のもと園生とともに飼育し、2年後同市の肥育共励会で優秀賞を獲得し100万円で販売したことが園生の励みになった。飼育していく過程で園生達の動物への愛情が牛、人双方に良い影響を与えるものと確信し、積極的に優良牛の導入を始め、専門指導員も配属しながら肉用牛飼育事業を拡張していった。その中で特記すべきは (1)平成11年に丁寧な牛の飼育が評価され、島根県より雌牛「福桜一の六」を特別に導入し、(2)平成12年に宮崎県から種雄牛「安平」系の雌牛を購入した事があげられる。
  • 牛のことはほぼ0からのスタートであり、近接地で同様な施設での類似事例は無かったため、福沢氏から指導を受けるとともに、専門指導員らが市場や共進会、研修会に足を運び勉強を続けている。

 

3)活動の成果

【肉用牛作業等を通じた社会参加】

食肉加工関連会社へ園生が就労するなど社会参加がみられ、施設で養った真面目な勤務態度は高く評価されている。また、地域との関わりの中で、「ゆめ色フェステバル」という大きなイベントの開催や、老人クラブやボランティアグループとの交流も活発に行われているほか、県内外のソフトボール大会でも目覚ましい成績を残している。
<ソフトボールにおける功績>
  県大会 優勝4回
  北海道・東北ブロック大会 優勝3回、準優勝3回
  全国大会 出場5回 優勝1回、3位2回

【アニマルセラピー】

牛によって人が安らぎ、人によって牛が安らぐという双方向のアニマルセラピーが成立し、牛は温和で飼い易く、当該施設での大規模家畜の飼育を可能としている。

【資源循環】

堆きゅう肥の草地還元や、近隣農家との稲わら交換により 牛 ― 畑 ― 田圃 間に資源が循環され、環境に優しい農業が実践されている。

優良な肉用牛の生産

【優良な肉用牛の生産】

  • 現在、繁殖牛78頭と子・育成牛44頭、肥育牛13頭の計135頭が飼養され、地域でも大規模和牛経営である。生産者は県共進会や枝肉共励会などで上位入賞を果たしているほか、県試験場の供卵牛に選抜されるなど優良牛を生産しており、家畜市場販売を通じて地域畜産振興に寄与している。
  • 最初の子牛は飼育開始から2年後に十和田市の共進会で優秀賞に選ばれる等、以下の様な好成績を示している(抜粋)。

<品評会部門>

年月 共進会名 成績
平成2年9月 第29回青森県畜産共進会 チャンピオン、優秀賞
平成2年9月 東日本和牛能力共進会福島大会 出場
平成3年8月 第30回青森県畜産共進会 チャンピオン2
平成5年8月 第32回青森県畜産共進会 優秀賞
平成6年8月 第33回青森県畜産共進会 1等賞2
平成7年9月 第34回青森県畜産共進会 チャンピオン、優秀賞
平成8年9月 第35回青森県畜産共進会 優秀賞、1等賞2
平成9年9月 第36回青森県畜産共進会 優秀賞2
平成11年9月 第38回青森県畜産共進会 チャンピオン(東北農政局長賞、県知事賞)
平成13年9月 青森県和牛共進会 グランドチャンピオン(農林水産大臣賞、東北農政局長賞)
高等登録チャンピオン、県知事賞
平成16年9月 青森県肉用牛共進会 チャンピオン(東北農政局長賞、県知事賞)、優秀賞
平成17年9月 青森県肉用牛共進会 優良賞
平成18年9月 青森県肉用牛共進会 優良賞3
平成19年9月 青森県肉用牛共進会 優良賞
平成20年9月 青森県肉用牛共進会 優良賞

<共励会・枝肉出荷部門>

年月 区分 結果
昭和62年2月 枝肉出荷(初出荷) A-5
昭和62年7月 枝肉出荷 A-5
昭和62年10月 枝肉出荷 A-5
昭和63年5月 枝肉出荷 A-5
昭和63年8月 枝肉出荷 A-4
平成元年7月 枝肉出荷 A-5
平成2年7月 枝肉出荷 A-5 2頭
平成3年6月 枝肉出荷 A-5
平成4年12月 仙台中央卸売食肉市場
枝肉共励会
チャンピオン賞
優秀賞
平成5年1月 仙台中央卸売食肉市場
枝肉共励会
チャンピオン賞
優勝賞2
平成5年11月 第25回青森県肥育肉用牛共進会
*農林水産祭式典参加
農林水産大臣賞
*明治神宮会館へ11名参加
平成5年12月 仙台中央卸売食肉市場
枝肉共励会
A-5
平成6年
8~10月
枝肉出荷 A-5 1頭
A-3 3頭
平成8年9月 枝肉出荷(初出荷) 銀賞
平成8年12月 第29回青森県肥育肉用牛共進会 優秀賞
平成9年12月 第30回青森県肥育肉用牛共進会 最優秀賞
平成11年11月 枝肉出荷 A-5
平成11年12月 枝肉出荷 A-4
平成11年12月 第32回青森県肥育肉用牛共進会 A-4
平成12年9月 枝肉出荷 A-5,B-4
平成12年12月 枝肉出荷 A-4
平成16年12月 県肉用牛枝肉共進会 A-4

【園生による飼いやすい牛づくり】

毎日の愛情牛との触れあい、特に丁寧なブラッシングは牛を温和にし、よく人に懐いている。このような牛が高く評価されるという事が、園生の楽しみ、生きがい、自信につながっており、これら地域の肉牛農家からも高く評価されている。

 

4)地域振興図

地域振興図

 

5)今後の課題

【社会参加】

  • 職業訓練を積んでも、就労先の確保が困難な状況にある。地域の企業に継続して働きかけていく。
  • 「インターンシップ制度(障害者版)」のようなものがあれば、障害者に対する社会の理解がすすむものと思われる。
  • 園生の高齢化が進んでいるため、今後はグループホームとして、老後も共同生活が出来る体制をつくっていく必要がある。

【肉用牛飼育及び農作業部門】

  • 子牛や枝肉の価格変動に左右されない繁殖肥育一貫生産を強化するため、肥育技術の向上が課題である。
  • 農業機械を使用する大規模化は困難なため品質の向上で生産性の向上を図っていく。

 

1.地域の概況
2.地域畜産振興活動の内容
3.当該事例の活動 ・成果の普及推進のポイント
4.活動の年次別推移
5.活動に対する受益者等の声(評価・意見)等
 
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